「垣根をこえて」

-2023- 162.0×162.0mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠、クレパス

人と人との関わり合いを、植物の間から漏れる光が地面で混ざり合い、流れを作りながらゆっくりと吸い込まれるように奥へと泳いでいく様子で表しました。
ゆったりとした時間の流れを感じてもらえるように絵の上半分は木漏れ日を感じさせる描写にし、下半分ではさまざまな色が混ざり合うように流れ進むのを見ながら、焦るような、あるいは追い立てられるような、少し陰鬱とした心情を混ざり合った色彩と明暗で描写しました。
自分だけのペースを保ち生きたいと思いながらも、周りに気を配り、気を取られ生ていく中で同じペースで歩む人と仲良くなったり、少し先を行く人に嫉妬したりと、人同士が触れ合うことでしか生まれない感情や感覚を絵から感じ取ってもらえるように制作しました。

「進むということ」

-2023- 162.0×422.6mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠、クレパス、金粉

この絵は、日本画と向き合いひたすら制作を続けてきた約7年間について、過去の自分を振り返るとともにこの先に待つ葛藤や不安の中を「何があっても進み続ける」といった思いで制作しました。作品の横の長さは4メートル以上あり、これから歩むであろう長い道と可能性の広さを表しています。
何事もチャレンジ、という心持ちでこの作品ではラフなどは制作せず、モチーフの配色や色彩をコロコロと気分を変えるように画面の中で自由に動かしました。
この絵の中にはまるで溶け込むような形で鳥を11羽描いています。11という数字は新しい物事の始まりを祝福してくれる数字であることから、この先経験するあらゆることに大きく期待を持ち羽ばたいていけ、と背中を押してもらうような感覚で制作しました。
2023年の嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学第51回制作展に出品し、教育後援会賞と京進会長賞を受賞しました。

「落陽」

-2023- 970×162.0mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠、クレパス、金粉

5羽のシロサギが日暮れをじっと待つ様を描きました。サギは毎日毎日ずっと川辺や川の中に立ち獲物を狙っています。お互い一定の距離を保ちながら自分の餌場を盗られまいと牽制し合うように立っている姿をよく見かけます。
鳥目という言葉があるように、鳥類の視力は夜になると低くなります。獲物を捕る目が鈍るなかでも、完全に暗くなるまでじっと餌を待つ様は一日の幕引きを待っているように見えました。鮮やかな日暮れの色彩と、立ち位置を決められた役者のようなサギの配置により、まるで舞台の上の出来事のように日々が過ぎている、台本どうりに事が淡々と進んでいる、というイメージで制作しました。
本来ならば、このようにサギ同士が身を寄せ合って過ごすということはあまりないように思いますが、いつもたった1羽で狩りをし続ける彼らが、何も見えなくなってしまう夜だけでも身を寄せ合っていればいいと思います。

「やぎとなり」

-2022- 606×727mm高知麻紙、水干絵具、胡粉、雲母、膠

牧場ののんびりとした情景と、やぎのいたずらっ子ぽさが可愛く醸し出されるように心がけて制作しました。
持ち前の人柄や生まれつきという意味を持つ「人となり」という言葉と、やぎがとなり同士仲良く並んでいる様から、やぎの持つ魅力を感じてもらうために、やぎとなり、と言うタイトルにしました。白い部分には胡粉と雲母という盛り上げ剤を使用して、やぎの毛の質感を表現しています。バンダナの色や表情でそれぞれ個性を表すことで、鑑賞していて少しでも楽しい気持ちになってもらえるように意識しました。

「いわしかん」

-2022- 845×594mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

鰯のオイルサーディンをイメージしました。
私は自分の防災グッズを所有しており定期的に水やカンパン、缶詰などの食料を交換しています。その際交換し忘れた賞味期限の3年ほど過ぎた鰯のオイルサーディンを見つけ、その時はやむをえず捨ててしまいました。食べ物を粗末にしてしまったことについての後悔や、オイルに漬けられて、わざわざ腐りにくいように加工されたにも関わらず、食べられることもなく捨てられてしまった鰯たちへの申し訳なさがなんとなく心に残ってしまい、なんとか形にして残したいと思ったのが制作のきっかけです。

「佇立」

-2022- 130.3×803mm雲肌麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

佇立はたたずむ、しばらくの間立ち止まるという意味です。小鳥や小動物は人間を見かけるだけですぐ逃げてしまいますが、モチーフであるオオアオサギなどの少し大きい野生個体は、人間と対面しても一目散に逃げることはせず、一瞬立ち止まりこちらを注意深く観察する瞬間があります。その動作がまるで人間を何か試しているような、あるいは「これ以上踏み込んでくれるな」といった強い警告に感じその迫力ある瞬間をどうにか絵に描き起こしたい、といった意図で制作しました。
サギの顔の部分には、カメラのフラッシュを強く焚いたような発光を見せるために白などの強い色を置き、実際に展示するときは顔の部分にスポットライトを当てました。

「うねり」

-2022- 116.7×803mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

房藤空木（フサフジウツギ）という植物をモチーフに制作しました。花は1つ1つが小さく密集していて、その房自体が大きな1つの花に見えるような植物です。メインの花房は中心からうねるように画面の外へ大きく振り出すような構図にすることで、小さいはずの花に存在感を持たせて迫力を出しています。
様々で複雑な流れに乗り、まるでサーフィンをするかのように自由な滑り出しを見せる花や葉を感じてもらえるような構成にしています。

「ゆきやなぎ」

-2022- 604×944mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

川縁に咲く雪柳(ゆきやなぎ)の花を描いた作品です。雪柳は3月から4月にかけて花を咲かせ、その様子が雪が積もっているように見えることから命名されました。
この雪柳をスケッチした時は天気も良く少し暑いと感じるほどの春の陽気でした。その中で元気いっぱいに空に向かって花を咲かせる雪柳を見た時、そのミスマッチさに心が惹かれたことを覚えています。陽にあたって本物の雪のようにきらめく花と、木や葉、蔦などが密集する薄暗い場所を対照的に描くことでその時の心情を表しています。

「追懷」

-2021- 150.0×200.0mm雲肌麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

祖父母の実家がある鞍馬の風景をもとに、自分が幼い頃に感じた情景や記憶を思い出しながら描き起こした作品です。自然に対する底知れない恐怖感や、子供特有の怖いもの見たさな好奇心がどろりと混ざったイメージで制作しました。
私にとって自然とは遊び場であり、同時に人を安易に受け入れない孤高の存在です。暖かく迎えてくれるような手前の光と拒むような沈む山奥との色彩の差で、私が思う「自然」の情景を表しました。タイトルは、過去を思い出して懐かしむこと、という意味です。
2021年の嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学第49回制作展に出品し、教育後援会賞を受賞しました。

「迎光」

-2021- 162.0×130.0mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

専攻科1回生の進級制作展に出品した作品です。
コロナ禍で満足に制作ができず、あらゆる行動が制限されていた当時は先が見えない抑圧された環境からどうにかして抜け出したいという思いを抱えていました。家に篭りっきりで家族以外の人に会うこともなく、精神的にとても疲弊した時間を過ごしており、当時は制作する気も起きないほどでした。しかし、どうにもできない現状の中でも、光の差す場所を探しだし行動することこそが今の自分の状況を好転させるために必要なのではと思い、制作を決めました。
未来に対する希望だけでなく、これから先に待ち受けるものに対する不安や、飛び立つまでの葛藤を感じてもらいたいという意図を持って描いています。

「潜」

-2020- 910×117.0mm雲肌麻紙、水干絵具、岩絵具、膠

天王寺動物園にて飼育されているミシシッピワニをモチーフに描きました。
目を画面中央からやや左下に配置した構図にして、目と周辺の鱗を描き込むことにより視線を誘導することで、左側からゆっくりと這い寄りこちらを伺うワニと目が合ってしまった、という場面になるように工夫しました。皮膚の硬さと口の中の柔らかさを対比させることで、現実味のない危険が差し迫るような様子を表現しました。画面全体を赤系統でまとめることで、モチーフであるワニに対しての警告と、ワニ自身の獰猛さ、獲物に対する高揚感が表情と相まって伝わるように制作しました。

「標本」

-2020- 334×455mm高知麻紙、水干絵具、胡粉、膠

「斜陽」

-2020- 334×455mm高知麻紙、水干絵具、胡粉、膠、クレパス

オレンジというモチーフを扱うにあたって、初めは明るくパッションな色彩と、オレンジの実を目立たせるような構図で考えていました。しかしどうしても納得のいく形になリませんでした。なのであえて主役にしたかったオレンジを背景と馴染ませ、反対に葉を前面に強く押し出すことで、切り取られたようなオレンジの実が上手く浮き出た絵になりました。斜陽のあたたかくぼんやりとした日差しと、オレンジの丸みが調和するように、様々な暖色を混ぜ合わせました。

「HORDE」

-2019-　 900×250mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、胡粉、膠、墨

イラストっぽさを意識して描いた作品です。
水の流れや、深度による色の濃さなどをある程度縁取りして描いていますが、反対に魚のうろこや表皮はリアルに描写しています。魚と水は切っても切れない関係にありますが、あえて同じ画面で描写を分けることによって、ミスマッチな雰囲気が生まれ、観察していて面白いと思ってもらえる絵になるように意識しました。

「鶏図」

-2019- 606×455mm高知麻紙、水干絵具、岩絵具、胡粉、膠、墨

大学で飼育されていた碁石チャボをじっくりと観察しながら描いた作品です。
恐竜のような足と濡れたような黒い模様を特に描き込みました。模様の黒の下には藍色を重ねており、それによって立体感を出しています。鶏の特徴である丸みを帯びた胸の部分は、綺麗に見えるように毛の流れを意識して描写しています。鶏は羽が密集しているため、丸っこく見えます。実際の鶏の体の面積と、空気を溜め込んで膨らんだ羽毛などの描写を意識しています。細かい毛の流れやちいさい羽の描き方 1 つで鶏っぽさが欠けてしまうので、動き回る鶏の羽の形をなるべく細かくとらえることで迷うことなく毛流れを描いています。